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ジンコウガクエン従軍日誌

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【プレイクラブ】クァルナルフの街 SCENE.5

プレイクラブ
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 いよいよ今週の金曜日にセクビが発売となります。どうやら二つの台風が近づいているらしく、当日はひょっとしたら波乱に満ちた発売日になるやも。配達の人、大丈夫かしらん。当日手に入らなくて、秋葉原まで出張らなきゃ…なんてことにならないとは思いますが!

 さて、ちょっと間が空いてしまいましたが「クァルナルフ」の更新を。今回はかなり長めであります。しばし「私」の独壇場が続いてしまうので挿絵のウルミエも出番がなく、あまり勿体ぶるよーな代物でもありませんので、一気に更新といきましょう。このあとに残り一回。たぶん、セクビが出る前に終わります。






SCENE.5

「来週にここを発つ」

「え……?」

 何の前振りもなく、私は窓を拭いていた小さな背中に声を掛けた。驚きに振り返ったその瞳が、信じられないものでも見るようにこちらに向けられている。

「街を出ると言ったんだ。もうここには戻らない」
 
 そうだ。戻るつもりなどない。ここに居たままでは心が荒み、体も腐っていくような気がする。

「……どうして、ですか」

 うまく言葉を繋ぐことができないのか、ウルミエは掠れた声でそう聞き返してきた。どういうわけだか顔が真っ青だ。近頃は肌の血色も良く、痩せた体にも肉が付き、年相応の女臭さを感じていたというのに。どうして、そんな顔をする。

「特に理由はない。もういい加減この景色も見飽きた頃だと思っていた」

 胸中の思いとは裏腹に、適当な言い訳を繕いながら私は彼女越しに窓の向こうを眺めた。日差しもろくに入らない狭い四角形の景色。隣の建物の壁に阻まれた僅かなその切れ間から、どんよりとした鈍色の空が覗いている。ひと雨きそうな天気だ。

「それは……、お別れということでしょうか」

 うなだれるウルミエ。前髪で隠れてその表情が見えない。おかしな方向に鋏を入れてしまったと、彼女が揃わぬ前髪を気にしていたのはいつのことだったか。揶揄した私としばらく口を利こうとしなかったあのむくれ顔は、いつ見たものだったか。

「何を言っている? ……お前も来るんだ。私と一緒に」

 私は憮然とする。つくづく頭の悪い女だと呆れた。もはやこんなくだらない感情ですら、自分の中で心地よく感じていることに私はまだ気付けていない。

「え……?」

「お前自身が言っただろう? 私に買われたと。ならばもうお前は私のモノだ」

「ですが……」

 こちらの顔色を窺うように見上げてくるウルミエ。まただ。もう何度となく私はそれを見てきた。従順であるべく躾けられた犬のように怯えた顔を。拾ってきた頃のウルミエの表情は貧相だった。不安、恐怖、そして媚びるような愛想笑い。長い間、他人にこき使われてきた彼女はそんなつまらない顔しかできない娘だった。けれど今は違う。人並みに笑い、怒り、そして泣く。この一年で私が変わったように、ウルミエもまた変われたはずなのだ。彼女とならば、どこへも行けるし、どこでも生きていける。

――だから、いつものように笑え。お前はただ頷いて私の傍にいればいい。

 気恥ずかしさゆえに口には出さない。その一言を喉元で押さえ込む。いや、言葉にせずとも彼女にはそれで通じると私は思っていた。当然のように。

 しかし、思惑は違った。大きく、とても大きく。

「……わたし、一緒には行けません」

「何?」

「お気持ちは嬉しく思います。でも、わたしは行けません」

 自嘲気味に笑うその顔に見覚えがある。諦めにも似た表情の翳り。ウルミエと最初に出会ったとき、持っていた路銀をくれてやろうとして断られたときの顔だ。

「……何故だ」

「……」

 意味が解らない。幸せの果実は目の前に生っているというのに、どうしてそれに手を伸ばそうとしないのか。私は苛立ち、黙ったままのウルミエに掴み掛かった。頑としてこちらをむこうとしない彼女の細い顎を無理やりに上げさせる。

「……」

 ウルミエの瞳が私を見た。彼女と初めて出会ったあの夜のように、自分の脳裏に再び母の面影が過ぎる。しかし、それは私の記憶に残っているものとは違った。慈愛を湛えた眼差しはなく、哀しみだけが深くその双眸に満ちている。

「……くっ」

 一瞬の躊躇に私の手の力は緩み、その隙にウルミエの視線はさっと逃げてしまった。

 ――どうして。

 どうしてお前は私を見ない。ここに連れてきて、今日この日までお前は一度たりとも私の命令に背かなかったではないか。

「くそっ」

 私は感情のままに傍のテーブルに拳をぶつける。陶器のカップが床に落ち、派手な音を立てて割れた。大きいものと小さいもの。古ぼけたものと少し新しいもの。不恰好な組み合わせの二つのカップはもう、元には戻らない。

「……拘る理由は何だ?」

「わたしは……、わたしはただ……」

「前にクァルナルフが好きだと言っていたな。こんな薄汚い街に何の価値がある? 力も富も持たないお前が、どうしてここで生きていける?」

「……」

「それが無いのなら私が与えてやる。力も、富も。何もかも、幾らでも。それが欲しければ私がくれてやる」

「……やめてください。そんなもの、わたしは欲しくないです」

 瞼を閉じ、いやいやをするように首を振るウルミエ。苛立ちが更に募る。この街に価値はない。私は間違ってなどいない。しかし、こちらが正論を突き付ける度に彼女は離れていく。

「では、惨めに野垂れ死ぬのを待つのか? それともマトモにここで天寿を全うできるとも? くだらん執着など捨てろ。上辺だけの矜持など、とっとと捨ててしまえ!」

 唇を噛み締めるウルミエに追い討ちを掛けるように、私は声を張り上げた。この娘はオノールという生い立ちの不幸に囚われ過ぎている。虐げられてきた半生の苦しみが骨の髄にまで染み付いてしまっている。それは、己の心をも狂わす毒だ。今ここでその毒素を抜かなければ、やがて手足を腐らせ心の臓を蝕み、そして自らを死に至らしめるだろう。私も同じだった。数千、数万という『命』を肩に背負い、その倍はあるであろう『死』を引き摺ってここまで歩いてきた。けれど、それももう限界だった。このままでは潰れてしまう。私のような矮小な人間にはあまりに荷が重すぎたのだ。

 ならば。ならば、そんな過去のことなど忘れてしまえばいい。全て無かったことにして、一からまたやり直せばいい。


 そう。自分たちは似た者同士。
(逃げる。)

 ウルミエが一緒ならば、私は――

(また、逃げる。)


「貴方には、わたしたちのことなんて解らないッ――!」

 強く胸を突き返され、私はよろけた。激昂の叫び。今までウルミエに優しく接してきた自覚はなかったが、彼女がこうも拒絶の感情を昂ぶらせることなど一度もなかった。空気が大きく震えて、部屋の扉が乱暴に閉まる。呆けたように立ち尽くした私が、ウルミエが出ていったのだと気付いたのはしばらく後になってからだった。


* * *


 静かな部屋の中で、ぼんやりと外の景色を眺めた。何のあてもなく、ただこうして窓際に立つのも久しぶりな感じがする。窓硝子に映ったどこかの男の横顔があまりに辛気臭くて、情けなくて、私は鼻で嘲った。

――ざまあないな。

 全てを力で捻じ伏せてきた自分が、一回りも二回りも齢の違う小娘ごときに気圧されてしまうとは。かつては”閃布の英刃”として大陸中に名を馳せたこの私がだ。

「くくっ……」

 乾いた笑いが一人きりの部屋に虚しく響いた。けれどそれもすぐに消える。 同じだと思った。これでは金でウルミエを服従させようとしたあの男と同じではないかと。だから私は、そんな不快感を一時でも胸から拭いたくて、自分が過ごしてきた今日までの日々を思い返して気持ちを紛らわせる。

 度重なる敗北。臣下の裏切り。形ばかりの綱紀粛正。私は現実の重責から逃れる為にこのクァルナルフへ流れ着き、己の死期を待った。そのうち天のお迎えはやってくるだろうし、剣を振り回していれば、つまらぬ刃傷沙汰に巻き込まれて死ねると思っていた。誰でもいい。誰の手に掛かろうが構いはしない。むしろ本望だ。できることならば、そのまま私のすべてを消し去って欲しかった。血も、肉も、こびり付いた記憶すらも。自分に関するあらゆるモノを一片たりとも残さずに。クァルナルフはいわば、私にとっての墓標だった。この身この心、この場所で朽ち果ててもいいと覚悟していた。

 それなのに。

「……」

 いつの間に変わってしまったのだろうか。己の道行きの先を示す道標へと。暗闇という名の底なし沼に嵌り込んだ私は、それがこの身体の全てを飲み込むのを待っていた。絶望も後悔もなく、苦笑いすら浮かべながらその時を待っていたように思う。しかし、水に溺れた瞬間の息苦しさはいつまでもやってはこず、ふと明るさに顔を上げれば眼前には道が拓け、その真ん中に己の足でしっかりと立っていることに気付く。そして目を細めた道の向こうに、誰かが待っているのだ。私を。


「……ウルミエ」

 無意識にその名前を呟いている。それとほぼ同時に、降り始めた雨の滴が小さく窓を叩いた。雲は厚い。すぐに本降りになるだろう。ちらりと移した視線の先に、毛織りの外套がある。上等な品でまだ新しい。いつだったか、行商のバザーを冷やかしに行ったついでにウルミエに買ってやったものだ。

「……」

 再び、窓の外に目を向ける。雨にけむる街。追い立てられるように帰路を急ぐ人々に、屋根の下で雨を凌ぐ人々。あいつもどこかでこの空を見上げているのだろうか。それともまだ、行くあてもなく彷徨い続けているのだろうか――

「……」

 あの馬鹿が好き勝手に出て行ったのだ。追いかける道理など一つもない。

(もう一度だけ。)

 しかし、びしょ濡れのまま部屋に戻ってこられては堪らない。身体を冷やして風邪でも引かれては、それこそ迷惑だ。私の世話をすると言い出したのは他でもないあいつなのだから。

(もう一度だけ、話し合おう。)

 まるで誰かに言い訳でもするようにして、私はウルミエの外套を掴むと部屋を出た。


* * *


 外はもう本降りだった。じっとしているとすぐに服が湿ってくる。私は軽く舌打ちをすると、外套を羽織って街の大通りを走り出した。水溜りに足を突っ込んでも気にしない。雨の飛沫が上がり、下半身が泥まみれになっても、走り続けることを止めない。

――どこに行った?

 心当たりを虱潰しに当たっていく。所詮は女の足だ。そう遠くまでは行けないだろう。行きつけの酒場、ウルミエの通っていたパイ焼きの露店、バザーが催される街の広場――。私はウルミエと背格好の似た女を見掛けるたびに、乱暴にその肩を掴んだ。

――どこに行った?

 もう数えるのも億劫だった。また人違いだ。ハズレの女を突き飛ばすと、私は恨めしげに空を仰ぐ。雨はまだ止まない。こんな広い街を一人で闇雲に探し回るのは、あまりに効率が悪かった。けれど誰かを頼るにしても、私にはクァルナルフに親しい者などいない。仕事の依頼主か、酒の注文を取る店主か、己が殺そうとする相手か。よくよく考えればウルミエ以外に私が口を聞いた人間など、その程度しかいなかったのだと気付く。どこまでも私は孤独だった。

 街をひた走る。唯一の気がかりは、あいつが間違ってスラム街の方まで行ってしまわないかということにあった。若い女が一人でふらふらと足を踏み込めば、飢えた野犬の群れに子兎を放り込んでやるようなもの。決して生きては出られまい。だがそれが私の早とちりだと気付いたのは、スラムの入り口で乞食の男に殴りかかろうとしていた時。若い女は通らなかったかと聞いても、要領を得ない答えしか返さない男の顔に拳を振り上げようとしていた時だった。



「……馬鹿らしい」

 冷静になれと自分を諌める。ウルミエはこの街にずっと家族と一緒に住んでいたと聞いた。それこそ、私がクァルナルフに流れ着くずっと以前から。たかだか数年の自分とは違う。僅かな油断が命取りになる日常を十数年も過ごしてきたのだ。スラムがどれだけ危険かを彼女が知らないはずがない。

「……」

 失意が半分。安堵が半分。複雑な思いを胸に私は来た道を戻る。いつだったか、こんな急な雨の日にウルミエが私を迎えに来たことを思い出した。彼女には場所はおろか、名前すら話したこともない店。その建物の庇の下で雨が上がるのを待っていた私を見つけるなり、あいつは駆け寄ってきた。自分はずぶ濡れのくせに、私の外套はしっかりと守るよう抱えて。何がそんなに嬉しいのかと、その上気した笑顔を見て気色が悪いと思ったあの日。

「馬鹿なのは、私か……」

 今日は立場が一転し、こちらが濡れ鼠だった。無駄足を踏んだ挙句にこのザマだ。思えば私はウルミエのことを何も知らない。彼女の口から伝え聞いた知識以外には何も。あいつが何を好きで、何を嫌いで、何を思っているのか。あれだけのあいだ身近に居ながらにして、自分はあの女のことを何も知らなかった。過ぎ去りし日々に幾ら問いを羅列しようとも、私には答えられない。考えれば考えるほど、その空欄は増えていくばかりだった。

 ”わたしたちのことなんて”

 ウルミエはそう言った。お前などに自分たちのことが解るはずがないと。それは家族のことか、或いはオノールの一族のことか。ウルミエが涙ながらに叫んだあの言葉の真意を見出そうとするも、今の私では苛立ちのほうが勝ってしまう。

――ふざけるな。

 そんなことが解るはずもない。所詮は他人なのだから。ならばお前に私のことが解るのかと、思考はくだらない水掛け論へと至り、またもや私は己自身に苛立つ。

「……っ」

 忌々しい。私は拳を傍の石壁へとぶつけた。何度も、何度も。指の皮が破れ、血が滲み出ても、湧き上がる感情のままに壁を殴り続けた。




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Comments - 2

きにちみ  
No title

待ってました。
どうやら暗くて重い過去を背負う主人公。
素性もだんだんわかってきました。一昔前は戦場で名をはせた戦闘指揮官だった?
そして、ある種の自殺願望のようなものを胸に、世を彷徨っているうちに見つけた一つのぬくもり。
まるで若かりし頃の自分を見ているようです。(嘘)

この後どうなるんでしょうね~
次回で最後とのことですが、主人公の内面はどのような形で決着するのか、ウルミエはどういう境遇に落ち着くのか、二人の関係はどうなるのか?
どうのようにまとまっていくのか、とても楽しみです。
できればハッピーエンドで終わらせてください…って、話はもう完成してるようなので無理か。^^;

あと、どうでもいいことですが、二人は一年間いっしょに暮していたようですが、二人の仕草や会話から察するに、主人公はウルミエを抱いていないですね?

2015/09/08 (Tue) 15:45 | EDIT | REPLY |   
フート軍曹  
No title

きにちみさま
 お待たせしました!実はきにちみさんの過去を振り返る話でもあるのです(笑)。

 伝えたいことを十二分に受け止めていただけたようで、それだけでホッとしています。「なんだか話がよく解らない」とゆーのがモノカキには一番辛いので...。簡潔に、かつ読みやすくを心掛けたつもりですが、今のところ気になる点とかありましたでしょーか。

 次の更新で終わります。少々手直しが必要な部分がありますが、スクショさえ撮れればアップは早いかと。明日中になんとかなるかな?

 プラトニックな仲でございます(笑)。元々一般向けの作品だったのですが、エロゲなので濡れ場入れても良かったかなーと今更。結末も変わったかもなーと今更。

2015/09/09 (Wed) 22:20 | EDIT | REPLY |   

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